東京六大学合唱連盟定期演奏会見聞録

東京六大学合唱連盟定期演奏会を観る

*男声合唱人口が減っていると漏れ聞く今日、東京六大学グリークラブの発表はいつか伺ってみたいと思っていた。関東圏ばかりでなく、男声合唱団は関西学院大学や神戸大学のグリークラブも耳にし、YouTubeなどで楽しめる。聞きなれた身近な曲が見事なほど合唱曲に編曲され、原曲の味を残しつつ合唱曲のうま味が十分に引き出され、思わずうなってしまう。

母校川越高校音楽部は高校部門での数少ない男声合唱となっている。そのすばらしさを再認識するためにも、見聞を広めてみようと、大学グリークラブの演奏会に初めて足を運んでみた。昭和27年日比谷公会堂で第一回演奏会が開かれて68回目になるという。

*『この星の上で』と題されたコンサートは六大学のエール交換から始まる。各大学の耳慣れた歌曲が響く。昭和時代、夜更けてラジオから流れる大学受験講座の青春の碑と、心静かに耳傾けた。

「冴えたり我が旗 風と光らん」と問えば「見よ 風に鳴るわが旗を」と応え、「見はるかす窓の富士が峯の雪」とたからかに「仰ぐは同じき 理想の光」と唱導すれば「時代の夢を破るべく」「「When the sun goes down and the moon comes up, St. Paul’s will shine」と続き、大空と眉秀でたる若き命のかぎり、刻苦研鑽他念なく、文化の護りたからかに久遠の夢を、瀟洒の装いあらたかに語り積む。

*本編の各大学の個性ある演奏概要に触れてみたい。

〇東大はゼンフルのモテット、ラテン語ではモテートゥス、中世末期からルネサンス音楽にかけて発達した宗教曲だ。不肖同窓子はかつてラテン語学習に四苦八苦。講義室の片隅で自由な語順で縦横無碍に変化する格変化を呪文のごとく唱え、高揚感と挫折感の入り混じった感情の中、学んだことはひとつ、古代ギリシャ語よりはやさしいって感じ。無論試験は散々。Mē miserum!  Et tū, Brūte?

宗教曲は脳内にα波が発生するのだろうか、脳はゆらぎ心は揺らぎ身体が心地よくしなだれる。

〇慶応は「ラトビアの人と風景」で土着の民謡を聴かせる。ラトビア共和国の公用語で、インド・ヨーロッパ語族のバルト語派に属するラトビア共和国の公用語ラトビア語であろうか、心地よい響きとなって耳を揺さぶり、身体を揺さぶる。三曲目には 郷愁を誘うラテン語の調べに戻り、体は完全に脱力状態。心を燃やす数多の星々その永遠は優しく飽きない。

〇法政は星野富弘さんの作詞になる「明日へ続く道」。平成24年度NHK全国学校音楽コンクール高等学校の部課題曲。東日本大震災で何もかも津波にさらわれた荒れ地のかなしみの中、一筋の希望の光を見出し、鼓舞していく。夜の海をつむぐピアノの音に導かれるまま、運命を受け入れながらも己が道を歩んでいく。

「けれどもう一度 もう一度やってみよう」 (もう一度)「自由なこころと夢がある 今私が立っているところから あしたへ続く道が始まる」(明日へ続く道)

〇早稲田は団紹介の中でグリークラブを「男声合唱というメディアを通して行う究極のエンターティンメント」と位置づけ、会場の空気を一変させる。東京、函館、沖縄、長崎、瀬戸内海、京都、東京へと飛行機、船、鉄道を駆使しての日本一周ガイドツアー。東京を起点に巡り巡って一巡し、TOKIOという終着点に会場はどよめく。宇田川安明さんの編曲が随所に光る。

〇明治はfinger-snapやらhand-clapやらで演者とともに聴衆を楽しませる。「うた」をテーマにスウィングやらブルースやら。ボカリーゼ、アカペラなど各パートが様々な歌唱技法を駆使し、その技術を披露する。

「匂い 笑い 新しい歌 これがぼくの飲みたいものだ」(新しい歌) 「うたをうたうとき わたしは からだを ぬぎすてます」(うたを うたう とき)「きみ歌えよ きみのこと 洗いざらい ひとりで歌えよ」(きみ歌えよ)など谷川俊太郎さんなどの詩を調べにのせる。

〇立教は「はだしで踏みしめることのできる星 土の星」(私たちの星)「あい はるかな過去を忘れないこと 愛 見えない未来を信じること」(あい)「くにぐにのさかいをこえさばくをこえ かたくななこころうごかないからだをこえ そのこえはとおくまでとどく」(そのひとがうたうとき)「笑うときには大口あけて おこるときには本気でおこる」(信じる)と『二十億光年の孤独』でデビューした谷川俊太郎氏の詩に松下耕氏が曲をつける。

◎ファイナルは六大学合同演奏ステージ『この星の上で』。元国語教師であったという高嶋昌二さんがが全体の指揮をとる。六大学の全員が壇上に勢ぞろいする合同演奏は壮観。多くの合唱曲になっている谷川俊太郎さんの詩で歌いあげる。

指揮者の高嶋さんによれば、”芸術の高みの見える「はる」、物質文明の限界を暗示する「地球の客」、分断される格差社会を予言する「おべんとうの歌」、人生の哀切あふれる「ほほえみ」、かなしみを救うかもしれない「今年」” へと楽曲を歌い継ぎ大団円を迎える。

「はなをこえ くもをこえ そらをこえ わたしはいつまでものぼってゆける」(二十億光年の孤独)「遠いうたごえ風のそよぎ 聞こえるだろうか いま」(真っ白でいるよりも)「手の中の一個のおむすびは 地球のように重い」(うつむく青年)「ほほえむことができぬから 木は風にそよぐ」(空に小鳥がいなくなった日)「御飯のおいしい日があるだろう  新しい靴を一足買うだろう 決心はにぶるだろう今年も しかし去年とちがうだろうほんのすこし 今年は」(祈らなくていいのか)

合唱の楽しさを演者観衆ともに味わうことのできる3時間半の演奏であった。本校OBの方の姿も壇上にあり、頼もしい限りであった。

* 尚、このこの六大学の演奏は、CD或いはDVDで手に入れることができるとのこと。ひとこと申し添えておきたい。

 

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